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高齢者の音楽療法 レクとの違い・プログラムの種類

高齢者の音楽療法 プログラムについて

音楽は人々の心をワクワクさせたり、昔を思い出させたりすることができるものです。認知症の高齢者の脳を活性化させるためにも役立てられています。参加者に合わせた内容を実施することで、心身共に元気が目指せるでしょう。

本記事では、音楽レクリエーションと音楽療法との違いと事前準備、プログラム内容や気をつけるポイントを紹介します。

【高齢者向け音楽療法】音楽レクリエーションとの違いや事前準備

音楽療法とは、様々な種類の音楽を用いたセラピーのことです。対して、音楽レクリエーション(音楽レク)は純粋に音楽を楽しむことがメインとなります。音楽療法は高齢者向けのセラピーなので目標がある点が大きく違います。

ここではセラピー・音楽レクとの違いと必要な事前準備を見ていきましょう。

【高齢者の音楽療法】音楽レクとの違い

タンバリンとマラカス

音楽療法と音楽レクリエーションは似ている言葉ですが、意味する内容は異なります。

1.音楽療法とは?

音楽を聴くとリラックスできる・活力が湧いてくるなど、誰もが経験したことがある音楽の効果を利用するのが音楽療法です。また、認知症の方に対してもよく用いられていて、音楽を通じ自分らしく生き生きと笑顔で生活できるようにサポートします。

2.音楽レクとの違い

音楽レクとの大きな違いは「目標」があるかどうかです。

音楽療法はただ歌う・演奏するというだけでなく、何を目的として歌うのか・楽器を使うのかが明確になっています。

例えば、認知症で意欲がなく話しかけても返事をしないような人がいた場合、その人にどうしたら意欲が戻るのかを考え目標を設定しなくてはなりません。その人の状態に合わせて、何が必要なのかを考えた上で設定します。

その目標を達成するために、歌や楽器を使用するのです。

音楽レクの場合は目標をあまり必要とせず、音楽を楽しむということに重きを置いている点が音楽療法との大きな違いといえるでしょう。

【高齢者の音楽療法】事前に必要な準備

ピアノとヘッドフォン

音楽療法を行うために必要な事前準備は以下のとおりです。

1.プログラムの作成

音楽療法を正しく実施するためにまず必要なのが「プログラムの作成」です。限られた時間内にどれを何曲歌うのかなどを考えながらいくつかのステップに分けて作成します。

初めに昔からある馴染みの深い歌を使い、参加者が意識し始めたら体操や演奏、場の空気が盛り上がったころに知っているけれど歌うのが難しい曲にチャレンジ…など、段階を踏んでいくことが多いです。

最後はクールダウンのためにゆったりとした曲調の音楽を取り入れ、セラピーの終わりを意識してもらうことも大切です。

また、プログラムを作成する上ではネタ探しも重要です。ネタを探す上では高齢者との普段の会話を意識しましょう。会話の中から昔好きだった曲やエピソードを聞き出し、ネタとプログラムに盛り込んでみましょう。

2.歌詞幕を準備

歌詞幕とは、歌詞を見やすいように書き記した紙(幕)のことです。誰もがわかりやすく見やすいように書くことが大切です。

3.演奏や歌の練習

セラピーでは、ただ演奏・歌唱するだけではありません。参加者の表情や反応を見ながら、歌ったり演奏したりする必要があります。

ただ歌う・演奏するだけよりもたくさんのことをしなくてはならないため、あらかじめ練習をしておきましょう。

4. 参加者の状態を把握

セラピーでは参加する人の精神・身体状態に合わせ、曲や楽器の選定をしなくてはなりません。また、デイサービスなど多くの人に対してセラピーを実施する場合、参加するメンバーが曜日によって変わったり、相性が良くないメンバーがいたりする可能性もあります。

どんな参加者がいるかを把握した上で内容を決める必要があるでしょう。もしも相性が良くないメンバーがいる場合は席を離すといった配慮も欠かせません。

さらに気をつけなくてはいけないのは「できないこと」「やりたくないこと」を無理にやらせようとしないことです。例えば、半身まひの人に対して両手が必要な楽器を渡す、目が悪く歌詞幕が見えない人に歌を歌ってもらう、幼少期に嫌な思い出がある人に当時よく流れていた歌を聴いてもらうなどの行為は、参加者のモチベーションを下げる原因になってしまいます。

こういった事態を招かないために、参加者の状態を把握することは事前準備としてとても大切です。

【高齢者向け音楽療法】プログラム内容や気をつけること

高齢者向けのセラピーでは、どういったプログラムを採用するのかを考えなくてはいけません。その内容で何を目的とするのかを意識するようしましょう。

ここではおすすめのプログラムや気をつけるポイントを紹介します。参加者全員に楽しめるポイントがそれぞれあるプログラムや得意な分野を発揮できるプログラム作りを意識してみてください。

【高齢者の音楽療法】プログラムの内容

ピアノを弾く高齢者

セラピーをどんな内容で実施するかは非常に大事なポイントです。おすすめのプログラムは以下の3種類があります。

1.童謡・わらべ歌の歌唱

音楽レクで最も基本的なのは「歌唱」です。特に懐かしい曲を歌うことは、昔を思い出すことにつながるでしょう。

特に季節にこだわった曲は、わかりやすく多くの人にとって受け入れやすいかもしれません。5月なら5月、8月なら8月など季節感がある歌を取り入れるのも効果的です。

例えば5月であれば、母の日や5月5日のこどもの日など特徴的な日が多いため、これらの要素が取り入れられた曲は懐かしく感じられるでしょう。夏を前にした印象的な曲「5月の別れ」などもおすすめです。

声量や聴く様子、歌詞に対しての理解などで健康状態を読み取ることができるかもしれません。また、多くの人にわかりやすいように様々な種類の音楽を用意することも大切です。

ただし、歌うことを強制するのは禁物です。人前で歌うことが苦手な人には、無理強いせずに本人の意志を尊重するようにしてください。リズムに乗ったり昔を懐かしんで聴いたりするだけでも心にプラスの効果をもたらします。

2.イントロクイズ

誰もが知っているような曲の冒頭部分を流して、タイトルを当ててもらうというゲームです。

参加者はその曲がどんなタイトルだったのかを早く判断する必要があるので、脳の活性化に役立つでしょう。また集中力を養う効果もあります。

3.ボール回し

10人ほどで輪になり、歌ったり音楽に合わせたりしながら隣の人にボールを回していきます。この際、感触が違うボールを3種類くらい用意しましょう。違う種類のボールを使うことで身体の重心移動が必要になり、平衡感覚が養われます。

また、歌いながらボールを回すという2つの行為を同時に行うことで、身体と頭が使えるようになり、脳トレ効果が期待できるでしょう。

まずは左回りに、曲の途中で右回りに…と方向を変えることも良い刺激につながります。歌のテンポも最初はゆっくり、段々スピードを上げるなどしていくと場の空気が盛り上がるでしょう。

4.歌詞に出てくる物の写真を用意

曲の歌詞に出てくる物の写真を用意するというネタをプログラムに盛り込むのもおすすめです。例えば「雪山」が歌詞に出てくるようであれば、雪山の写真を用意しましょう。雪山の写真を高齢者にみせることで、思い出を振り返ることができます。

5.輪唱

輪唱に適した楽曲もプログラムの1つとしておすすめです。「かえるのうた」や「静かな湖畔」など他のパートにつられないように歌う必要があるため、ネタとしてプログラムに盛り込むと、脳の活性化が期待できます。

【高齢者の音楽療法】気をつけるポイント

エクスクラメーションマーク

音楽療法を行う上で気をつけたいポイントは主に6つです。

1.聴力を確認

高齢になると、音量が大きくないと聞き取りにくい・音の種類によっては聞き取りづらいといった「聞き取る力」の衰えが発生します。

音が上手く聞き取れないと、音楽レクも思うように楽しめません。参加者がどれぐらいの聴力があるか、事前に確認しておきましょう。

2.疲れに注意

認知症の高齢者の多くは、疲れやすさや集中力の低下、注意力の持続困難を抱えています。

どれだけ楽しいプログラムであっても、長時間集中しなくてはならない状況だと疲れてしまい、ストレスにつながる可能性が否めません。

集中する必要がない曲を合間に入れたり、インターバルを挟んだりして疲れにくい配慮が必要です。

3.個人のレベルを意識

人によって、性格や身体機能、認知症状のレベルは様々です。みんなでこれをやりましょう、と参加者を一括りにしてしまうのはおすすめできません。それぞれの参加者に合わせ、内容を組み立てていきましょう。

全員がまんべんなく参加できるようにすることで、多くの参加者の満足度がアップします。

4.スタッフも一緒に楽しむ

音楽は誰かと一緒に楽しむことでより楽しくなっていきます。みんなで歌ったり演奏したりすると、楽しくプログラムに取り組めるでしょう。

また、人前で歌ったり演奏したりすることが苦手な人の多くは、もし失敗したらどうしよう……という不安を抱えています。少し間違えても周りが励ます空気を作ることで、安心して取り組んでもらえるはずです。

参加者に楽しんでもらうために、スタッフも一緒に楽しみましょう。

5.常に目を配る

セラピー中、楽しんでいるか、どんな動きをしているかといったことに気をつけながら常に目を配りましょう。特に参加者が楽しんでいるかどうかを気にすることはとても大切です。

またレクリエーション中だけでなく、終わった後の様子も注意深く観察してみてください。あまり満足そうな顔をしていなかった、無理な体勢で疲れを感じていたというような場合は、次回からより安心して楽しめる内容に変える必要があります。参加者の状態をチェックし、次回以降の課題設定に役立てましょう。

6.レクリエーションに参加しやすい環境作り

歌うだけのプログラムでは、歌を歌うのが苦手な人は音楽をあまり知らない人は参加しづらくなります。誰もが楽しめるように、あらゆる方向から参加しやすい環境を整えておきましょう。

例えば、歌う代わりに簡単に演奏できるタンバリンやカスタネットを叩いてもらうと、歌えない人や歌を知らない人でも気軽に参加できます。

音楽の力でサポート!リハビリ分野の音楽療法とは?

リハビリ分野の音楽療法の事例について紹介

「リハビリ分野の音楽療法」について事例を紹介します。療法内容から患者さんの変化にいたるまでを解説します。

◆【神経学的音楽療法】脳梗塞後の空間無視

外傷性脳障害や神経変性疾患は年間100万人以上の人の生活に支障を来しています。神経学的音楽療法は、元の活力がある状態にするための療法です。

Kさんは、脳梗塞で視野障害と知覚障害を患っていました。空間構成を正常に戻すため、失われた視野に注意が向くよう時間・テンポ・リズムを構成した音楽を準備し、左の空間にたどり着くことができました。

紹介動画(Neurologic Music Therapy: Carol--Stroke Rehabilitation)

◆【リズム療法】外傷性の脊髄損傷による歩行困難

Mさんは朝自転車をこいでいるときに交通事故に遭い、脊髄損傷受けてしまいました。歩行の様子は、バランスがうまくとれない・歩幅が短い・足を高く上げることができない・右足の方がより力が入っていない等の状態です。

セッションの流れをご紹介します。

①歩行を改善する為音楽を使用

ギターのリズムに合わせて歩調が一定のリズムになるようにすると同時に、歩幅を大きくあるくようにトレーニングを実施。リズム(歩調)とストライドの長さの改善をし、体重を片足ずつにかけられるようにすることを目的としたトレーニングです。

②ベルを踏む動作

片足ずつ体重をかけられるように足を上げてベルを踏む動作をします。ベルを踏むことにより、軸足の位置やベルを踏む方の側の足の高さなどを音で確認します。同時に、ギターのリズム、音楽療法士の歌声にあわせて行うことでより脳神経系に強く働きかけることができ、リハビリテーションの効果を高めます。

リズムは脳や運動神経に動くためのパターンを迷うことなくできるよう、働きかけることができるという研究報告もございます。

Mさんは、はじめ右足でバランスをとることが難しく足を交互にリズム良く出すことができていませんでした。続けていくうちに均一で安定したリズムがうまく右足で立って左足でベルをたたけるようになっていきます。

③ベルに足を乗せて音をならす動作

片足ずつベルを鳴らすことができるようになった為、次にベルに足を乗せてならす動作と、歩いて前に動く動作を一緒に行うリハビリを実施。ベルを踏みながら歩くことで、歩行機能の回復を狙います。

④音楽なしで歩く動作

Mさんは、このリハビリを行うことでバランスと歩行が著明に改善していきました。

その後音楽なしでも歩けるようになりました。徹底的な音楽とリズムを取り入れたリハビリでこのような結果を得ることができ、一緒に歌うようになりました。

紹介動画(MedRhythms - Gait Training)

◆【リズム療法】交通事故による脳挫傷、片麻痺、歩行困難

Aさんは車の交通事故で脳挫傷を負ってしまったため自力で歩行することができないことに苦しんでいました。神経学的音楽療法として理学療法士と一緒に以下の介入を行いました。

【リズムによる聴覚刺激法】

音楽に合わせて歩行練習などを行うことで、動作パターンを安定させる訓練です。

歩調の改善、左下肢の動きの改善を目的とした訓練です。42.5回/分のリズムで中等度のアシストを実施しました。

【治療的楽器演奏】

楽器の演奏を行うことで運動機能の改善を図る訓練です。ハイハット(シンバルの一種で、小さめのシンバルを2枚合わせペダルで開け閉めを操作しつつスティックで叩けるようにしたもの)を麻痺側の足で踏みながらリズムに合わせて演奏することで足の動きと連係動作の改善を目指します。リハビリをしばらく行った後の状態で、バランスの改善を行い、ゆっくりした速度フットクリアランス(遊脚期における足底部から歩行路面までの距離)の改善を行います。

リズムによる聴覚刺激法を実施(42.5回/分⇒85回/分のリズム)し、Aさんの歩行が改善するのに合わせてリズミカルな運動を追加していきました。

【パターン化した感覚の強化療法】

音楽のパターン(速度、強度、音階など)を合図に、動作のパターン(速度、強度、運動範囲など)を誘導する訓練です。

トライアルの流れをご紹介します。

①治療的楽器演奏を実施

ベルを用いた治療的楽器演奏を実施し、足でベルを踏みながら歩きます。

目標は、片足で立てるようになること、バランスがとれるようになることです。

②バランスのさらなる改善

バランスのさらなる改善を図る為、片足で立てる時間を延ばす訓練を実施しました。

結果、Aさんは支持力とバランスの改善をしました。110回/分のリズムで近くでの転倒しないように見守るのみのサポートが可能になりました。

③バランスを維持

110回/分から90回/分にリズムを変更することで、リズムが変わってもバランスを維持することができるようになりました。

紹介動画(Music and Neuroscience to Improve Walking Following Brain Injury)

高齢者が音楽を楽しみながら元気になれるようサポートする音楽療法士

高齢者向けの音楽療法は参加者にわかりやすい内容を計画し、楽器など誰もが参加しやすい環境を整えてあげることが大切です。

一般社団法人Loveセラピープロジェクトでは、高齢者の充実した毎日を支える音楽療法士の資格取得をサポートしております。実践に特化した講座を開講し、すぐに役立つ技術を学んでいただけるのが特徴です。

資格取得を考えている方、音楽を楽しみながら仕事に就きたいという方はぜひ、ご相談ください。

音楽療法士の資格取得をお考えなら一般社団法人Loveセラピープロジェクトへ

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